トム・ロブ・スミス著「グラーグ57」(新潮文庫)

2009年9月17日木曜日

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トム・ロブ・スミス第二作の「グラーグ57(新潮文庫)」は、一言で言ってしまえば三文小説。このミスで昨年1位を取ったデビュー作の「チャイルド44 (新潮文庫)」とは大違い。前作の緊迫した展開と緻密な文章は完全に姿を消した。仮に今年のランキングで、「グラーグ57」が10位以内に入るようじゃ、そのランキングへの信頼度も揺らぐ。

ある程度のご都合主義は構わないが、目に余るレベル。正直辟易。

それに、非科学的な記述が多すぎる。物理法則、化学反応、生理現象を無視した、それはありえないだろう、という描写がやたら目につき、そのたびにこの作品に対する評価が一段また一段と下がった。

前作は、一人の殺人犯とそれを追う一人の主人公を中心とした比較的狭い話だったが、今作はソ連とハンガリーの政治や社会にまで話を広げたため、想像力が膨らみ過ぎたようだ。話を大きく広げ過ぎた結果、筆力が追いつかなかったのかもしれない。

かと言って科学的描写が多すぎるのも小説としては失格なので、そのバランスが難しい。

昨年話題になり、2008年度「このミス」で第11位を獲得した「深海のYrr (ハヤカワ文庫)」は、作品の進行には必須ではない科学的描写が多すぎて、読むリズムが悪くなってしまっていた。せっかく調べたことを書かないのはもったいないと思ったのかどうか分からないが、ストーリー展開には関係ない説明がやたら多かった。

上中下の3巻ものだったが、不必要な個所を削れば半分ぐらいになったろうし、そうすればリズム良く読めてもっと面白かったろうに。

科学的描写や不必要な説明が多すぎて読むリズムが崩れてしまい、その結果として小説としての完成度が低くなった例として、福井晴敏の「終戦のローレライ(講談社文庫)」や瀬名秀明の「パラサイト・イヴ (新潮文庫)」が挙げられる。どちらも日本では評価が高かったが、科学的描写が多過ぎることに起因するリズム感の悪さがどうにもこうにも私には合わなかった。どちらの作品ももっとスリムに削ればより面白くなったろうに。

「深海のYrr」もそうだったが、大体、福井晴敏か瀬名秀明が「絶賛」と帯に書かれている小説は、みなこの傾向にあることを経験上学んだ。今のところ、そういう帯がついているからと言って買うのを止めたことはないが、あまり度重なるようだと考えなくてはいけないかも。

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